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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1259号 判決 1987年11月05日

原告

伊藤泰喜

右訴訟代理人弁護士

秦重德

右訴訟復代理人弁護士

小名雄一郎

被告

伊東英光

右訴訟代理人弁護士

満園武尚

満園勝美

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1(主位的請求の趣旨)

(一)  別紙物件目録記載の各土地につき原告が共有持分三二〇五分の三〇五〇を有することを確認する。

(二)  被告は原告に対し別紙物件目録記載の各土地についての被告のための所有権取得登記につき原告の持分三二〇五分の三〇五〇、被告の持分三二〇五分の一五五とする共有登記への更正登記手続をせよ。

(三)  被告は原告に対し金一九八三万円並びに内金一三三四万円に対する昭和五一年一〇月二九日から及び内金六四九万円に対する昭和五二年二月六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2(予備的請求の趣旨)

被告は原告に対し金一億三四〇八万一五六九円及び内金六二六四万二〇六四円に対する昭和五八年一一月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 1(三)又は2につき仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二  当事者双方の主張

一  請求の原因

1  主位的請求の原因

(一) 訴外亡春山鍵太郎(以下「春山」という。)と訴外中村香一(以下「中村」という。)とは、昭和四三年五月一一日、静岡県賀茂郡下田町旧岡方村字三溪山及び字石霜解の土地約六〇〇〇坪の宅地造成事業を両名の共同事業として行うこととし、春山は三〇〇〇万円を、中村は従来個人として取得していた一切の権利をそれぞれ出資し、持分は各二分の一とし、利益分配は折半する旨の組合契約を締結した。

(二) 原告は、昭和四三年一一月一七日ごろ、春山に対価として一九五〇万円(書面上三〇〇〇万円)を支払つて、同人から右(一)の組合に関する権利義務全部を譲受け、事業に加わつた。また、被告は、「東栄商事」の商号をもつて宅地建物取引業を営んでいたが、右商号を組合事業に使用させるために、これに関与するようになつた。

(三) 原告、中村及び被告の三者間において、昭和四三年一一月一七日、右事業に関し次のとおりの契約を締結した(以下、この契約を「本件契約」といい、これに基づく三名の事業体を「本件組合」という。)。

(1) 本事業の主体としては、やがて株式会社を設立する予定であるが、それまでの間は三者の共同事業とし、「東栄商事」の商号を使用する。

(2) 出資額は、原告三〇五〇万円、中村一七〇〇万円、被告一五五万円とする。

(イ) 原告が既に支払つた土地買受代金八五〇万円、中村に支払つた一五〇万円、訴外高清水富政(以下「高清水」という。)に支払つた工事代金五〇万円、合計一〇五〇万円は原告の出資金の一部とみなし、そのほかに原告において新たに二〇〇〇万円を出資する。

(ロ) 中村が従前事業に投入した費用は一七〇〇万円であることを承認し、これを同人の出資金とみなす。

(ハ) 被告が春山に支払つた一〇五万円と高清水に支払つた五〇万円との合計一五五万円を被告の出資金とみなす。

(3) 原告が春山脱退に際し支出した金員を三〇〇〇万円とみなし、また、原告が中村のために支払つた肩替金が三〇〇万円であることを確認し、合計三三〇〇万円を組合に対する貸付金とし、造成地分譲代金から第一順位をもつて返済する。

(4) 業務分担として、

(イ) 原告は、資金面を担当し、事業の総括監督の任に当たる。

(ロ) 中村は、現地責任者として工事の監督に当たり、有利に宅地売買を遂行する。

(ハ) 被告は、宅地の売買に主力を注ぐ。

(5) 純利益は、原告五〇パーセント、中村三五パーセント、被告一五パーセントの割合で分配する。

(6) 組合の取得する土地の登記名義は被告とし、造成した宅地の分譲は全て被告の仲介によることとし、その手数料を六パーセントとする(なお、そのほかに、組合が被告に昭和四五年四月から同五一年七月までの間月給三万円を支給した。)。

(四)(1) 右契約締結に先立ち、原告は、昭和四三年七月九日、訴外石川栄一から、下田町旧岡方村(後に下田町六丁目更に下田市六丁目に変更。以下同じ。)七四八番四山林三五六〇平方メートルを代金六五〇万円で買受け、訴外株式会社宝製作所(以下「宝製作所」という。)名義に所有権取得登記を経由した。この土地は、後に被告名義になるとともに、本件契約に基づく宅地造成地に組込まれ、昭和四七年一月一二日、同番一一四山林四二四平方メートル(別紙物件目録番号九)、同番一一五山林三五二平方メートル(同一〇)その他の土地に分筆された。

(2) 原告は、昭和四三年七月三〇日、訴外碓氷真欣外一名から下田町旧岡方村二七九番一畑九七五平方メートルを代金三〇〇万円で買受け、被告名義に所有権取得登記を経由した。この土地も宅地造成地に組込まれ、昭和四四年六月二三日、同所二五七番に合筆された。

(五) 本件契約締結後、本件組合は、別表一土地買収一覧表記載番号3以下のとおり土地を買収し、宅地造成工事を開始した。右買収に要した同表記載の代金額及び造成工事費用約八〇〇〇万円は、全て原告が支出した。そして、造成された宅地については、合筆、分筆のうえ(その一部は別表二土地分合経過表記載のとおりである。)、昭和四三年中から逐次分譲を始め、昭和五一年七月ごろには大半の分譲を終えたが、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)は、その売れ残り部分であり、現に被告所有名義に登記されている。

(六) 中村と原告及び被告との間に昭和四五年一月ころから紛争が生じたが、同四六年一二月一三日、和解が成立し、原告が中村に一七〇〇万円を支払つて同人から一切の権利を譲受け、同人は本件組合から脱退した。

(七) 被告は、原告に無断で、右造成地の内から、

(1) 昭和五一年一〇月二八日、訴外高橋博に、下田町六丁目七四八番四〇雑種地三三九平方メートル(別表二(2)参照)を代金一三三四万円で売却し、

(2) 昭和五二年二月五日、黒川雅代外一名に、同所七四八番二〇三雑種地一六五平方メートル(右同参照)を売却し、その代金額は不明であるが、(1)と同一単価として六四九万円と推定されるところ、

右各代金を着服して本件組合に納入せず、合計一九八三万円の損害を組合に与えた。

(八) 被告の右の行為は、原・被告間の信頼関係を破壊するものであるから、原告は、本訴において、被告に対し、民法六八三条により、本件組合の解散を請求する。

(九) 本件組合に出資した額は、前記(三)(2)のとおりであり、組合財産は組合員の共有に属し、その持分は出資の額に応ずるものであるから、本件土地に対する原告の持分は三二〇五分の三〇五〇、被告の持分は三二〇五分の一五五である。

(一〇) 原告は、本件契約に基づく事業の総括監督の権利義務を有し、組合契約が終了して残余財産の清算をするためには、土地売却代金が原告に引渡される必要があり、被告の前記(七)の無断売却による取得金額についても、損害賠償として原告に支払われるべきである。

(一一) よつて、原告は、被告に対し、本件土地につき、原告が右(九)の共有持分を有することを確認し、右持分に合致するよう更正登記手続をなすことを求め、また、(七)の土地売却による損害賠償一九八三万円及びこれに対する前記(七)の各売却の日の翌日以降民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  予備的請求の原因

仮に1(三)の本件契約により民法上の組合が成立したものと認められず、宅地造成事業の主体が被告個人であると認められるとすれば、次のとおり主張する。

(一) 原告は、被告に対し、出資金又は貸金名義で次の各金銭を貸渡した。

(1) 一〇五〇万円

(イ) 原告が昭和四三年一〇月一九日に支出した土地代金八五〇万円、中村に渡した一五〇万円、高清水に支払つた工事代金五〇万円、合計一〇五〇万円を、同年一一月一七日、被告への出資金に充当した。

(ロ) 右金額に対する昭和五四年一〇月三一日までの年六分の割合による利息は六九五万〇七一二円である。

(2) 五〇万円

(イ) 原告が高清水に支払つた五〇万円を被告の支出として被告の出資金一〇五万円に加えて、一五五万円を被告の出資額としたものであるから、右五〇万円は原告が被告のために立替払したことになる。

(ロ) 右金額に対する昭和四三年一一月一七日から同五四年一〇月三一日までの年六分の割合による利息は三二万六三二二円である。

(3) 四八二二万七六一四円

(イ) 原告が、被告に対し、別表三原告支払表記載のとおり、昭和四三年一一月四日から同四九年三月二五日までの間に、原告の妻伊藤とめ(以下「とめ」という。)名義のもの三九〇〇万円を含めて支出した金額合計一億一九八九万六六一〇円から、別表四弁済表の内原告の認める弁済金額七一六六万八九九六円(内とめ名義分三二〇七万円)を差引いた残額である。

(ロ) 右金額に対する昭和五四年一〇月三一日までの年六分の割合の利息は、支出額一億一九八九万六六一〇円に対する利息額七二〇〇万六九〇九円(原告名義分四八四五万六八五五円、とめ名義分二三五五万〇〇五四円)から弁済額七一六六万八九九六円に対する利息額二二〇五万九〇六二円(原告名義分一一六九万一三五八円、とめ名義分一〇三六万七七〇四円)を差引いた金額である四九九四万七八四七円である。

(4) 三四一万四四五〇円

原告は、昭和五四年一二月二四日から同五八年四月二一日まで、前記事業のため被告所有名義とされている土地に対する右金額の固定資産税を立替えて支払つた。

(二) 右(一)の(1)ないし(4)の各元金の合計は六二六四万二〇六四円、その内(1)ないし(3)の元金合計五九二二万七六一四円に対する昭和五四年一〇月三一日までの利息は右(1)ないし(3)の各(ロ)の金額の合計五七二二万四八八一円、同じく同年一一月一日から同五八年一〇月三一日までの利息は一四二一万四六二七円、利息合計は七一四三万九五〇五円である。

よつて、原告は被告に対し右元利合計一億三四〇八万一五六九円及び内金六二六四万二〇六四円に対する昭和五八年一一月一日以降商事法定利率年六分の割合による利息又は遅延損害金の支払を求める。

二  答弁

1(一)  請求の原因1の内(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の内、被告が「東栄商事」の商号で宅地建物取引業を営んでいること、原告及び被告が宅地造成事業に関与するようになつたことは認めるが、原告に関するその余の事実は知らない。

(三)  同(三)の内、原告、中村、被告の間に昭和四三年一一月一七日共同事業に関する本件契約が締結されたことは認めるが、その趣旨及び内容は争う。宅地造成の許可を受け分譲を行うのは宅地建物取引業者でなければならず、被告は、原告の加入前から、春山、中村の共同事業に加わり、その名義人となつていたのであり、本件契約によつても、免許を有する被告が事業の主体となり、事業の経費は被告の借入で処理し、借入金は売上から返済することと定められたのであつて、右契約は被告を営業者とする匿名組合契約である。

(四)(1)  同(四)(1)の内、七四八番四の土地につき、原告がその買受代金として五〇〇万円を支出し、宝製作所名義に所有権取得登記を経由し、更にその後これが被告名義となつたこと、右土地が原告主張のとおり分筆されたことは認める。しかし、右土地が宝製作所の名義とされたのは、春山が売主の代理人として原告の妻とめとの間に締結した東京都板橋区成増の土地の売買契約について、手付金が授受されたのみで、売主側の債務の履行がされていないため、その担保として春山が既に買受の契約をしていた右七四八番四の土地を原告に提供したことによるものである。

(2)  同(四)(2)の内、二七九番一の土地について被告名義に所有権取得登記されたことは認めるが、原告がこれを買受けたことは否認する。

(五)  同(五)の内、各土地の買収、造成、分筆、合筆がなされた事実、本件土地が現に被告所有名義に登記されている事実は認めるが、原告が買収代金、造成費用を支出した事実は否認する。

(六)  同(六)のとおり訴訟上の和解により中村が脱退した事実は認めるが、これにより匿名組合契約は解除されたものである。

(七)  同(七)の内、その(1)及び(2)の各土地を被告が売却した事実は認め、その余の事実は否認する。

(八)  同(八)ないし(一〇)の主張は争う。

2(一)  請求原因2(一)の内、(1)、(2)の事実は否認する。

(二)  同(3)の内、別表三の被告認否欄に○印を付した金額の借受けをした事実は認め、同じく×印を付した借受は否認する。

三  抗弁

1  原告、中村、被告間の共同事業に関する契約は、請求の原因1(六)の訴訟上の和解による中村の脱退に際して、合意解除された。

2  被告は、原告に対し、原告名義及びとめ名義による借入金につき、別表四弁済表記載のとおり弁済として支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。本件組合は、中村の脱退により、以後、原告と被告の組合として存続したものである。

2  同2については、別表四中原告認否欄に○印を付した金銭の支払を受け同貸主名義人欄記載の名義の貸金の弁済に充当したことは認め、同欄に×印を付したものの支払の事実は否認する。

第三  証拠関係<省略>

理由

一原告、中村及び被告の間に、昭和四三年一一月一七日、宅地造成事業に関する本件契約が締結された事実は当事者間に争いがなく、右契約が民法上の組合契約であるか、匿名組合であるかが、本件の第一の争点であるから、これについて検討する。

1  春山と中村との間に、昭和四三年五月一一日、静岡県賀茂郡下田町旧岡方村字三渓山及び字石霜解地内の土地約六〇〇〇坪(弁論の全趣旨によれば、同所は、その後名称変更及び市制施行により下田町六丁目に、次いで下田市六丁目になつたことが認められるが、以下、同地内にある土地については地番のみを表示する。)の宅地造成事業について請求の原因1(一)の内容の共同事業契約が締結されたこと、その後春山が右事業から脱退し、原告及び被告がこれに加わるようになつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件宅地造成事業は、もと訴外株式会社商工観光が計画していたが、同社が倒産したため、その従業員であつた中村が春山を誘つて右事業に乗出し、昭和四〇年九月、二七七番、二七八番、二八〇番三、七四八番三の各土地(別表一土地買収一覧表番号3、4、5、12の各土地合計一万二六八〇平方メートル)を、後に分譲代金が入つた時に買受ける予定のもとに、所有者笹本行雄から賃借して、宅地造成事業に着手し、宅地建物取引業者の名義を必要とすることから、昭和四三年春ごろ以降、右業者である被告を参加させるようになつたこと、他方、原告は、昭和四三年二月ごろ、被告の仲介により、売主の代理人である春山との間に、東京都板橋区成増所在の土地を買受ける契約を締結し、手付金五〇〇万円を同人に支払つていたが、同人の不手際により右契約の履行を受けることが困難な状況になつていたところ、同人から、右契約による損失の補填のため、本件造成事業にかかる土地を買入れて利益を得ることを勧められて、これに関与するようになつたこと、原告は、中村が昭和四二年一月一九日所有者訴外石川栄一から七四八番四山林三五六〇平方メートル(別表一番号1)を代金八五〇万円で買受ける承諾を得ていたので、残代金五〇〇万円を同人に支払つて、昭和四三年七月一一日、右土地につき原告の経営する宝製作所名義に所有権移転登記を経由し、また、中村が同年六月一三日に訴外碓氷真欣外一名との間に代金三〇〇万円で買受けることを約していた二七九番一畑九七五平方メートル(別表一番号2)についても、中村を介して右代金を支払い、同年七月三〇日被告名義でこれを買受けたこと、更に、前記二七七番、二七八番、二八〇番三についても、原告が、同年一〇月三〇日、笹本との間に被告名義で代金四八九万円をもつてこれを買受ける旨の契約を締結し、同月中に右代金を支払つたこと、このようにして、原告が資金を支出し、被告が土地取得の名義人となつて、事実上共同事業が進捗していたが、同年一〇月ごろ春山が病に倒れたため、同人との間で金銭の清算をして同人を脱退させることに合意し、改めて原告、中村、被告の三者の共同事業として契約を明確化することとなり、本件契約の締結に至つたこと、以上の事実が認められ<る>。

2  <証拠>によれば、昭和四三年一一月一七日に原告、中村及び被告の三者間に締結された本件契約の要旨は、次のとおりであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  事業形態としては、将来新会社を設立するが、その機が熟するまで、被告の商号である東栄商事名義をもつて事業を行い、三者が協議して運営する。

(二)(1)  原告が土地購入及び造成費として春山に渡していた三〇〇〇万円を同人に対する脱退による持分返還金に充て、これに、原告が中村の旧債を立替払した三〇〇万円を加えた三三〇〇万円は、初期の売上から、造成工事に支障を来たさない限度において早急に原告に返還する。

(2)  これまでに原告が支払つた土地代金八五〇万円、中村に渡していた一五〇万円及び高清水に支払つた造成工事代金五〇万円、合計一〇五〇万円は、事業出資金の一部とする。

(3)  原告は、以後も土地購入、賃借、造成の費用を、二〇〇〇万円を限度として必要の都度支出し、これを右(2)に加えて出資金とする。

(4)  中村がこれまでに投じた費用が一七〇〇万円であるこを承認し、これを同人の出資金とする。

(5)  被告が春山に支払つた一〇五万円及び工事代金として高清水に支払つた五〇万円の合計一五五万円を被告の出資金とする。

(三)  事業の分担として、

(1) 原告は、必要な資金を速やかに調達し、工事、営業、経理の総括監督に当たる。

(2) 中村は、現地責任者として常時工事の監督に当たり、また、現地における知名度を活かして、有利に宅地売買を遂行する。

(3) 被告は営業面を担当し、宅地売買に主力を注ぎ、同業者、監督官庁との折衝を円滑に行う。

(四)  売上金から税金引当金(一〇パーセント)と諸経費を差引いた後の純利益は、原告四七パーセント、中村四〇パーセント、被告一三パーセントの割合で配分する。ただし、各人の能力によつて、各宅地ごとに予定された価格以上の代金額で売却し得た場合には、その超過部分の額の二分の一を当人の取得とする。

(五)  なお、契約書には明記されなかつたが、土地の買収、分譲に当たつては被告を契約名義人とすることが予定された。

3  <証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  本件契約の締結と同日、東栄商事代表被告名義で、原告がその保証人となり、高清水との間に、宅地造成及び附随土木工事の請負工事が締結された。

(二)  宝製作所名義で取得していた前記七四八番四の土地についても、共同事業にこれを組込むこととし、同日、宝製作所と被告との間に、右土地につき宅地造成工事を被告が行い、完成後は、その面積の一八パーセントを道路用地とし、工事代金の弁済分として二二パーセントを被告が譲受け、残り六〇パーセントを宝製作所に引渡す旨の契約が締結された。

(三)  本件契約後は、東栄商事被告名義で東京都民銀行板橋支店に当座口座を開設して、右事業による収支を右口座によつて行い、宝製作所の社員藤波進が右事業の経理事務を処理した。

4  その後、右事業として別表一記載のとおり土地が買収され、造成され、その一部について別表二記載のとおり分筆、合筆がなされたことは当事者間に争いがなく、この事実に、<証拠>を総合すれば、右買収土地の多くは、被告名義に登記されたが、七四八番三の土地から昭和四五年二月一七日に分筆された土地の一部は、原告の妻とめの関係する会社である訴外協立計器工業株式会社名義に所有権取得登記が経由され、また、右会社名義とされた土地について更に被告に所有権移転登記がなされたものや、逆に被告名義から右会社へ所有権移転登記されたものもあつたこと、これら被告名義とされた土地の一部については、被告の単独処分を制限する目的で、原告名義の所有権移転請求権仮登記がなされていたこと、宅地造成、分譲の進捗に伴い、別表二記載のもの以外の土地の分・合筆もなされたが、昭和五〇年六月二日、前記3(二)の契約の実行の方法として、被告名義の二五七番五外七筆の土地が宝製作所に、宝製作所名義の土地の内七四八番一一四、同番一一五(別紙物件目録番号九、一〇)等が被告に、それぞれ交換を原因として所有権移転登記されたこと、土地分譲の広告には、東栄商事代表被告を売主とし、宝製作所(代表者原告)を後援として表示していたこと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

5 以上に認定した事実によれば、本件事業においては、被告の従前からの商号である東栄商事の名称を使用し、対外的に土地の取得、売却は、原則として被告の名義をもつてなされるものではあつたが、原告は、資金の調達、提供のみではなく、営業、経理の全般を監督するものとされ、原告の経営する会社の社員に経理事務を担当させており、中村も、元来自己の事業として宅地造成を始めていた者で、被告の参加後も、単なる被用者としてではなく、共同の事業者として造成に携わるものとされ、かつ、原告及び中村がその努力で売却先を開拓することも予定され、取得した土地について原告側関係者の名義とされたものもあり、また、被告名義に登記された土地に対し被告の処分を制限する目的で原告名義の仮登記を付したものもあるのであつて、これらの事実を総合すると、原告及び中村は、単なる出資者として利益配分を受けるだけでなく、自らも営業に参画し、とくに原告は、経営の全般を監督する地位にあつたものであるから、本件組合は、原告、中村及び被告の三者による民法上の組合であると認めるのが相当であつて(営業名義人が被告であることは、講学上のいわゆる内的組合として、民法上の組合の成立を認める妨げにはならないというべきである。)、被告を営業者とする匿名組合である旨の被告の主張は採用し得ない。

二次に、本件契約の解消について判断する。

1  被告の契約解除の主張について判断する。昭和四六年一二月一三日成立した訴訟上の和解によつて、中村が本件組合から脱退した事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告及び被告は、中村が組合の経理から支出された金員をその事業目的以外の個人的用途に流用しているとして、昭和四四年一二月ごろ、同人に対し本件組合から除名する旨を通告し、同人は、これに対抗して、昭和四五年一月初め、宝製作所及び被告の名義の土地の一部について、本件契約による利益配分割合をもつて共有持分を有するものと主張して、処分禁止の仮処分をし、これに対し原告、被告及び宝製作所が異議を申立てた訴訟の控訴審において昭和四六年一二月一三日、中村と宝製作所、原告及び被告との間に前記和解が成立したこと、右和解の骨子は、「原告、被告、中村間の昭和四三年一一月一七日なされた共同事業契約を本日合意解除」し、原告、被告及び宝製作所は、中村に対し、右「契約の終了に伴う清算金一七〇〇万円の支払義務のあることを認め、」これを原告振出、被告及び宝製作所各裏書の手形をもつて支払うことを約し、共同事業における第三者に対する債務については中村の負担部分はないものとし、仮処分にかかる土地は宝製作所及び被告の各所有であることを確認するというものであつたこと、右約定どおりの手形の振出、裏書がなされ、中村に対する一七〇〇万円の支払は完了したこと、以上の事実が認められる。右のとおり、和解は、中村と、その対立訴訟当事者である原告、被告及び宝製作所との間に成立し、中村に対する清算金の支払(これは同人の出資金の返還に当たることが<証拠>から明らかである。)を約したものであり、他方、<証拠>によつても、右和解条項中には、共同訴訟当事者であつた原告と被告との間において共同事業を終了させ、清算をすることを予定したような定めは認められず、<証拠>によれば、右和解成立後も、原告及びとめ名義による右事業への出資は続いており、昭和四九年末に税務署の指導により造成地の未処分部分を宝製作所分と東栄商事分とに分け、後者については、被告において、たな卸し資産に計上して昭和四四年に遡つて所得税の修正申告をしたが、その後も依然造成事業の収支は前記銀行口座によつて管理されており、昭和五一、二年ごろまでは、原告、被告のいずれからも清算の申出はなされなかつたことが認められ、このような事実によれば、前記和解条項中の「合意解除」「契約の終了」等の文言は、中村の脱退を意味するにすぎず、原告と被告との間において組合契約を解除することを合意したものではないことが明らかであつて、右解除の事実を認めることはできないものというべきである。<証拠判断略>

2  次に、原告の組合解散の請求について判断する。被告が請求の原因1(七)のとおり七四八番四〇、同番二〇三の各土地を売却した事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右各土地(七四八番二〇三についてはその分筆前の同番三九)については、被告名義に所有権取得登記がなされたうえで、昭和四八年一二月一八日、原告名義に所有権移転請求権仮登記がなされていたところ、被告は、同五一年九月八日、右各仮登記を抹消したうえ、右各土地(同番二〇三は、同年一一月九日同番三九から分筆して)を第三者に分譲したものであることが認められる。ところで、造成地の分譲は、本件組合の本来の事業目的であるから、仮に、被告が、その業務執行を制限する目的で付せられた原告名義の仮登記を原告に無断で抹消し、その業務執行権限の範囲を超えて右各土地の売却をしたものであるとしても、その売却価格が適正なものであり、かつ、その代金が組合の収入に組み入れられている限り、組合に損害は生じないものと解されるところ、<証拠>に記載された分譲広告の価格に照らして、原告主張の売却価格が不当に低廉であつたとは認めるに足りず、また、右代金が売却後直ちに組合の経理に組入れられたことを確認し得る資料はないけれども、被告がこれを着服したか否かは、その後の利益分配又は清算の結果をまたなくては断定しがたいものであり、この点を明らかにし得る資料はない。

しかし、本件組合は、原告、被告の二名のみの組合となり、本訴の提起、継続により、両者間の信類関係は全く失われ、共同して事業を行うことが不可能な状態に至つていることが弁論の全趣旨によつて明らかであるから、このような場合には、信頼関係の破綻がいずれの責によるものかを問うまでもなく、組合を解散するほかはないものというべきであり、原告が本訴において組合解散の請求をしたことは記録上明らかである。したがつて、結局、原告の解散の主張は理由がある。

三そこで、原告の主位的請求について判断する。

1 本件土地につき共有名義への更正登記手続及び共有持分の確認を求める請求は、組合の解散を前提とするならば、解散後の組合財産の分割及び分割の結果としての権利関係の確認を求める趣旨に解されるところ、このような分割は、清算手続によつて組合事業全体の収支が明らかにされ、本件土地が残余財産となることが確定されたときに初めて請求し得るものと解すべきであるが、本件においてそのような清算手続がなされていないことは明らかであり、一歩譲つて、清算前においても、収支の状況から、残余財産を生ずることが確実であることが証明された場合に、分割請求をなし得ると解されるとしても、そのような収支の全貌を明らかにし得る資料は提出されていないから、未だ分割を求め、かつ、分割の結果としての権利関係を主張することはできないものというべきである。なお、解散前の組合財産については、前記認定のとおり、被告の単独所有名義とし、被告の名をもつて処分することが許容されていたのであるから、清算のための処分の前提として原告、被告の共有名義とする必要があるとも認めがたい。したがつて、確認請求及び登記請求は理由がない。

2 次に損害賠償請求についてみるに、被告の土地売却によつて組合に損害が生じたものと認めるに足りないことは、前記二2のとおりであるし、仮に何らかの損害が生じ、被告が組合財産に対してこれを補填すべき義務を負うとしても、このような組合と組合員との間の債務の履行は清算手続においてなされるべきものであり、清算は、総組合員の過半数(過半数とは、頭数によるものと解されるから、本件においては原告、被告の一致を要することとなる。)によつて選任された清算人又は総組合員の共同によつてなされるものであるが、原告が、清算のために必要であることを理由としても、自己の権利として損害賠償を請求し得るものでないことも明らかであつて、原告の損害賠償請求も理由がない。

四原告の予備的請求は、主位的請求の原因とされた本件契約が民法上の組合契約である事実が認められないことを前提とするものであるところ、右組合契約の成立が認められることは前記のとおりであるが、結局主位的請求は理由がないと判断されたので、以下、予備的請求についても言及することとする。

1 請求の原因2(一)(1)の一〇五〇万円は、前記一2(二)(2)の出資金に当たることが原告の主張自体から明らかであり、本件組合が解散しても清算未了の間はその返還を求め得ないことは、いうまでもないから、その請求は失当である。

2  請求の原因2(一)(2)の五〇万円は、原告の主張どおりとすれば、原告が被告個人のために立替払したものと言えないこともなく、原告本人(第一、二回尋問)は、右主張に沿う供述をするが、原告が高清水に工事代金として、右1の一〇五〇万円に含まれた五〇万円とは別に五〇万円を支払つていた事実を裏付ける資料は外に見当たらず、右供述自体によつても、右金員を被告の出資金に充当することとした理由についても必ずしも首肯し得ないものがあつて、右供述は採用するに足りず、他に右主張事実を認め得る証拠はない。

3 請求の原因2(一)(3)の原告及びその妻とめ名義で支出した金員は、原告の主張自体に徴し、組合の事業遂行に必要な資金として支出したことが明らかであるから、これも出資金とみるべきである。もつとも、別表三の昭和四三年一一月一七日付三三〇〇万円は、前記一2(二)(1)の三三〇〇万円に該当するものと解され、本件契約においてはこれを出資金とは別個の貸金又は立替金であるかのごとく定めているが、組合員が組合のための貸金又は立替金として金銭を拠出するということは、結局出資と同視し得るものというべく、他の出資金と合わせて清算されるべきものであり、いずれにしても、清算前に被告に対して返還を求め得るものではないと解される。

4  請求の原因2(一)(4)の固定資産税の立替は、被告所有名義の組合財産についての支出であると解されるところ、解散請求の前後を通じ組合財産の維持管理のために要したこれらの経費は、やはり清算の対象とされるべきものであつて、清算前にその償還を求め得ないものと解される。

5  以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の予備的請求も理由がない。

五以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官野田宏)

別紙物件目録<省略>

別表一土地買収一覧表<省略>

別表二土地分合経過表<省略>

別表三原告支払表<省略>

別表四弁済表<省略>

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